こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。
2016年10月14日に公開されたばかりの映画『永い言い訳』を見てきまして、それがすごくよかったため感想を書いてみます。
テーマとしては重いもののように思えますが、子どもが出てくるシーンでは笑えたりもして、決して重苦しいだけの映画ではありません。
原作・脚本・監督は『ゆれる』『ディア・ドクター』の西川美和さんです。
(なお、アイキャッチ画像の出典は『永い言い訳』公式サイト)
⇒『【完全ネタバレ】「永い言い訳」映画・小説の感想 やっぱりすごく面白い』
目次
あらすじ(公式サイトと同程度)
あらすじは箇条書きにするとこんな感じです。
- 主人公は人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(きぬがささちお)。俳優は本木雅弘さん。
- 冒頭、妻が親友と旅行に出かけ、旅先で事故に遭い、亡くなってしまう。
- 主人公は事故当時不倫中。
- 主人公はテレビにも出演しているような人気作家だったため、取材に応える必要もあり、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。
- 事故後、妻の親友の遺族(ご主人と男女の子ども二人)と出会う。
- 主人公には子どもがおらず、ふとした思いつきからその子ども二人の世話を買って出る。
- 主人公は子どもとの触れ合いを通して誰かのために生きる幸せを知り、虚しかった毎日が輝き出すが…
(一部『永い言い訳』公式サイトより引用)
キャッチコピー
妻が死んだ。
これっぽっちも泣けなかった。
そこから愛しはじめた。
もう少し詳しく(ややネタバレ?)
ネタバレというほどではないのですが、あらすじだけだと、
■ なぜ子ども二人の世話を買って出たのかがわからない
■ 「誰かのために生きる幸せを知り、虚しかった毎日が輝き出すが…」が若干安っぽい
という問題があり、なぜ私が面白いと思ったのかと、この2点についてもう少し詳しく書いてみます。
が、
すでに見に行くことを決めている方、
「事前にあらすじ以上の中身は知りたくないわ!」という方、
はこの先を読まないことをおすすめします。
書いて大丈夫でしょうか。
開始1分でくそ野郎
さて、映画の面白かった点を書いていきますが、主人公が開始1分もしないうちにくそ野郎であることが明らかになります。
美容師である奥さんに髪を切ってもらうシーンから始まるのですが、そこでの奥さんに対する態度がもう最低で、理屈っぽく、ネチネチしていて、けれど私はいきなり鷲掴みにされました。
なぜ鷲掴みにされたのか。
それは、
「ああ、こういう奴いる」
と思ったからであり、もっと言うと、
「おれじゃん」
と思わず自分を投影させてしまうようなネチネチ具合だったからです。
事故直後のくそ野郎
主人公は「奥さんに愛情はあるけど不倫もする」というタイプではなく、結婚後の期間の経過を経てもう愛情自体がなくなっているようでした。
あらすじで、
「主人公はテレビにも出演しているような人気作家だったため、取材に応える必要もあり、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない」
と書きましたが、取材陣に囲まれた際、感情的になるでもなく、けれどスマートすぎず、一面から言えば「悲しみを押し殺しながら努めて理性的でいる夫」を演じているのかなともとれる応答をします。
それ自体は「まあしかたないよな」と思うのですが、その後家に帰った主人公はエゴサーチ、つまり「津村啓 かわいそう」などと自分のペンネームと言葉を組み合わせてネットを検索し、自分に対する世間の評価を調べます。
真顔で、淡々と。
これも喪失感のあらわれではあるのでしょうが、
「あ、こいつ『亡くなってしまった奥さん』のことを思っているんじゃなく『奥さんを亡くした自分』のことしか考えてない」
というのが非常に伝わってきます。
くそ野郎、子どもの面倒見るってよ
これもあらすじで書いたように「ふとした思いつきから、妻の親友の遺族である子ども二人の世話を買って出る」ことになったのですが、
主人公 ⇒ | おしゃれな家に住み、おしゃれなご飯を食べ、おしゃれに暮らす |
親友の遺族 ⇒ | 公営団地に住み、主人公が普段行く店のご飯に「こんなの食べたことない!」と驚き、つつましくお互いに支え合って暮らす |
と普段の生活がまったく違います。
世話を見ることになる経緯
また、あらすじであんまり詳しく言うのも憚られたので書きませんでしたが、
- 長男(しんぺい君)は小学6年生で、妹は保育園に通っている
- しんぺい君は塾に通っていて有名中学への進学も考えていたが、お母さんが亡くなってしまい、お父さんはトラックの運転手で数日家を空けることもあり、妹の世話もしなければならないので受験を断念しようとする
- その話を聞いた主人公が、「週2回の塾の間くらいなら僕が面倒みるよ」と買って出る
というのがお世話をすることになった流れです。
私は子どものころ公営団地に住んでまして、そのご家族と似た暮らしをしていたせいもあったのか、最初主人公がそう言い出したときも「どうせポーズだろ」「続かないだろ」と考えました。
しかし二人の子どもとのつながりが深まるにつれ、喪失感を埋めたかったのか、妻に対しての言い訳なのか、主人公はどんどんその家族に本気で向き合うようになります。
主人公の外見上の変化
面白いのが、初めて世話をしにそのお宅へ行った際、主人公はめちゃくちゃおしゃれに着飾ってきました。
ストールとかめちゃくちゃおしゃれに首に巻きつけて、
「おれ、普段バスとか乗んないけど、きょうは子どもの世話をするためにわざわざ乗っちゃってるよん」
感をあますところなく醸し出します。
しかし本気で向き合うようになるにつれラフな格好になり、しまいには妹(あかりちゃん)を乗せたママチャリを漕いで全力疾走までします。
面白かった・不快になった・泣けた点
というのがあらすじに沿った詳細な流れで、実際にはまだまだ話が続くのですが、ネタバレの加減がわからないのでこのへんでやめておきます。
私のこの作品に対する印象は、タイトルに書いたように
「面白かった・不快になった・泣けた」
なのですが、それぞれどのような点にそう感じたのかも書いておきます。
面白かった点
くそ野郎くそ野郎と連呼していますが、私が「面白い」と感じたのは、
- 登場人物全員が人間らしい
- しかも、その人間らしさがむき出しになっている(特に主人公)
- 事故に対するそれぞれの向き合い方が描かれていて、誰かが常に正しいわけでもなく、正しさを見る人に押し付けてくるわけでもなく、登場人物それぞれがそれぞれの時間をとおして変化していく、生きていっているのを感じる
といった点です。
不快になった点
「不快になった」というのは、やはり主人公がくそ野郎で自分を投影してしまったからです。
私は人間には誰しも不快な、人には言えない・出せない面があると考えています。
だからある意味では「だからこそ生身の人間を描けている」とも感じました。
私が不快になったのは、主人公のむき出しの姿に、人には出せない自分を見たからです。
おっさんの泣いたポイント
おっさんというのは私のことです。
私は『崖の上のポニョ』を映画館に一人で見に行き、子どもに囲まれ一人泣くおっさん、という醜態をさらすほどすぐ泣くので、正直私の「泣いた」はあんまり参考になりません。
しかしタイトルに「泣いた」といれた以上泣いたポイントをいくつか。
- 人見知りなのか、最初は話しかけてもほとんど反応のなかった妹のあかりちゃんが、徐々に主人公になついていく過程に泣く
- 夜、長男のしんぺい君を迎えにあかりちゃんとバス亭に行く最中、近所のおばちゃんから「あなた誰?」と不審がられた主人公をとっさの機転であかりちゃんが庇い、自分から手をつないでくれたシーンで泣く
- 長男のしんぺい君が塾の帰り、眠りこけてしまいバスを降り過ごすことがあり、その事実や主人公が迎えに行ったときの言葉に「そうだよな、つらいよな、お母さんがいなくなって、でもお兄ちゃんだから気を張ってるんだよな」と泣く
- 二人の父親(竹原ピストルさん)は直情的ですぐ泣くのですが、その涙につられて泣く
- 自宅の家事をしなかった(できなかった)主人公の、さりげない変化に泣く
という感じです。
『永い言い訳』感想のまとめ
というわけで、
- 『永い言い訳』のあらすじ
- ややネタバレ?を含めたもう少し詳しいあらすじ
- 面白かった・不快になった・泣けた点
について書きました。
長くなったため短文で感想をまとめると、
誰かが正しいわけではなく、正しさを見る人に押し付けてくるわけでもなく、登場人物それぞれがそれぞれの時間をとおして変化していく映画。
自意識の肥大した男の醜さ・弱さを見せつけられ、しかしそれが間違いなく自分自身でもあるので、目を離せなくなる。
というところでしょうか。
本当はキャッチコピーや題名に対して解消できていない疑問があり、そのあたりも書きたかったのですが、すでに相当なボリュームになってしまったので一旦やめます。
小説も出ているので、読んで理解を深めることができたらまた追記いたします。
⇒『【完全ネタバレ】「永い言い訳」映画・小説の感想 やっぱりすごく面白い』
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