1.当記事はフィクションです。フィクションなだけではなく中身スッカスカのためご了承ください
2.税理士業界の内輪ネタが出てくることがありますが、意味のわからない用語は読み飛ばしてくださいごめんなさい
~前回のあらすじ~
ブラック税理士事務所で深夜に残業してたらシャープの電卓から怪しいジジイの声が聞こえ、ジジイに騙された結果電卓(シャープ)にしゅるんと吸い込まれ異世界に召喚されたからジジイを必ず殺す
⇒前回『【第1話】税理士のおれが異世界転移して確定申告無双!?』
ここはどこだ……?
なんだか、ほのかに甘い香りがする……
おれは水の中を漂っていた。目を開けようとしても開くことができず、全身のちからが抜けたままだ。ふしぎと、安らかな気持ち。やわらかな夢にくるまれているようだ。どこか、たしかな目的地へ、ゆっくりと押し流されているように感じる。
なんでおれはこんなところにいるんだっけ……?
考えるが、頭が回らない。ただ、いまは眠るように、この水の中にたゆたっていたいだけだ。胎児に戻ったかのよう。この、どこかで嗅いだことのある、ほのかに甘いにおいの安らぎ……そして……シャリシャリした食感……
シャリシャリした食感……?
梨汁…………????
ここ、梨汁の中…………????
「梨汁プシャー伝説……ッ!!」
すべての記憶が頭に戻って力のかぎり叫ぶと、上体が起きた。非常に荘厳な、天井の広い西洋風の広間の真ん中におれは座っていた。服装はスーツのまま、なのはいいがびしょ濡れに濡れている。
「うわ、なんだこれ」
濡れた袖のほのかに甘いにおいを嗅いでいると、「うわほんとに来た」と小さな驚く声が聞こえた。
後ろを振り向くと、驚いた顔の50歳前後であろういかにも王様という風な格好をしたおじさんがいた。声の印象よりも若い。なかなかいかめしいメガネをかけている。
「『ほんとに来た』っておかしくない?」
「いやだってはじめてじゃもん。ワシのはじめてもらわれちゃったんじゃもん」
「1919コマンドといい下ネタに寄せてくんのやめて。なに、えーと、あんたが」
言いながら立ち上がり、おれは声の主と向かい合う。「プシャー国王」
「そう、あ、ちょっと待ってちょっと待って。ええ、ん、ゴホン」
国王は居住まいを正してひとつ咳をする。
「よくぞ参られた……わが世界の救世」
「それいらないよね? ムダに低音ハスキーボイスを絞り出してるけど、第一声で『うわほんとに来た』って言っちゃったんだからいまさらかっこつけても遅いよね?」
「やっぱり雰囲気ってもんがあるでしょうよ」
「雰囲気」
「そう、だからよくぞ参られた……わが世界の救世主よ」
「(言い切るまであきらめないタイプなのか)まあ、いいけど、なんでおれはこんなビショビショなの?」
おれは改めて自分の濡れた全身を見やる。せっかくの一張羅が台無しだ。
「梨です」
「梨」
「そう、わが国の名産」
「名産」
「救世主を呼ぶための秘法が『梨汁プシャー伝説』。わが国の名産が梨。そしたら梨汁でしょ? 梨汁を通した召喚に行き着くでしょ?」
「まず梨汁プシャーに関する権利関係を調整してから言え」
「つまり梨汁を媒介にして救世主さまをお呼びしたわけですなぁ! でもおいしいと思うよ自慢だよ」
「いや味の問題じゃなくてビショビショにされたこの服どうしてくれんのって話でほんとだうまい」
右の手首をなめてみると、たしかになるほど甘くて、シャリシャリした食感も少し残っている。
「しかし、うわーほんとに来ちゃったのか。仕事やばいなあ、書き置きぐらい残しておけばよかった。まさか強制召喚されるとはなあ」
「そこはほんとごめん」
「謝るんだったらするんじゃないよ。でもまああれでしょ、この世界の危機なわけでしょ。まあおれのほうは、死ぬわけじゃないというか、お金で解決できる問題でもあるというか所長が損害こうむってなんとかしろというか、正直嫌気もさしてたしどうにかなるっちゃなるからいいすよ」
「こいつチョロいなあ(さすがは救世主! 御心の広さに救われまする)」
おれは何も言わずに拳で王様のメガネを叩き割る。
「メガネがぁぁぁぁぁ!!!! ワシの、ワシのメガネがパリンパリン!!!!」
「お前めっちゃ心の声がだだ漏れてるからな。まじでそういうとこだぞ」
「いや、なに、ワシのメガネひとつでこの国が救われるのであれば……ワシは民のため、喜んで犠牲になろうぞ……ガクッ」
「陛下、陛下ぁぁぁ!!!!」
広間の側面にあった立派な扉が、バタンッという音とともに勢いよく開き、40代前半ぐらいであろう男が飛び出してくる。巻き髪で、いかにも中世の貴族風な格好をしており、こちらは真ん丸のメガネをかけている。異世界的なセオリーからするとなんらかの大臣だろうか。男は泣きながらプシャー国王を抱え上げた。
「陛下……陛下の尊いご遺志、崇高なるその犠牲、末代まで民に伝えましてござりまする」
「死んだ風になってるけどここで私の主張したいポイントが3点あります。
- メガネが割れただけ
- 崇高な犠牲というが『こいつチョロいなあ』とか言わなければメガネ割られることさえなかった
- 『ガクッ』って自分の口で言ってたし結構余裕はある
以上です」
抱き起こされた国王が、おれの発言を受けてチラッと上目遣いでこっちを見やった。「見んなよ」と言うがいかにも茶番といった雰囲気にいたたまれなくなり、おれは目をそらす。すると男がサッとすばやく国王のメガネをかけ替えた。スペアのメガネがあるんかい。
「なるほど、救世主どんがなかなかの蛮勇ということはわかったわい。これでもワシは国王じゃからね、こんな失礼な振る舞いしたらほんとはあれだよ? 救世主どんといえどもなんらかの刑に処するよ?」
「なんらかってなんだよ。まずそこをハッキリさせろ。あとおれの呼び名『救世主どん』なの? もっとマシなのない?」
「なんの刑じゃったっけね大臣。ああ、紹介が遅れた。このほうはわがプシャー国の大臣じゃ」
「大臣でございます、救世主どん」
「もう『救世主どん』で確定しちゃったの? お前ら絶対敬意のかけらもないよね?」
うやうやしく頭を下げつづける大臣にひと言もの申すが、大臣の肩がプルプルと震えておりよく耳を澄ますと「救世主どん……クク……」という笑い声が漏れている。絶対バカにしてんなこいつら。あと大して面白くないネタで自ら笑ってんのも腹立つ。自分のオヤジギャグで爆笑する所長を思い出す。あのときのまわりの苦い顔。
「お前らバカにすんなら帰るぞ」
「まあ待つんじゃ救世主どん。わかった呼び名の話は今度ちゃんとしようどん。いまはわが国の危機の話だどん」
「突然語尾を『どん』に変えるな」
また拳で王様のメガネを叩き割る。「メガネがぁぁぁぁ」とのたうちまわるが、また大臣が抱き起こし、王様のメガネをサッとかけ替える。王様はなぜか上目遣いでおれを見やる。捨てられた子犬のごとき瞳。こっち見んな。
また突然の了
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<あとがき>
前回書いたら意外と反響いただけたので調子にのり、続編を書いてみました。やっと異世界へ来た(が異世界感はゼロ)。
次回シャウプ姫が出る予定ですが、ほんとに次回があるかはわからないし、その次はほんとにわからないのでマジで期待しないでください。
<目次と突然思いついたサブタイトル>
⇒『【第1話】税理士のおれが異世界転移して確定申告無双!? シャープの電卓が光ったときは気をつけろ』
⇒『【第2話】税理士のおれが異世界転移して確定申告無双!? シャープとメガネと梨汁プシャー』(このページ)
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