漫画「春の呪い」 おれ荒波に浮かぶ小舟かな?ってぐらい心を揺さぶられたおすすめマンガ(暗くて重い)

 

こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。

 

 

泣いた。

 

泣いたよわたくしは。

 

 

突然なんだとお思いでしょうが、『春の呪い』というマンガがとてもおもしろくて心に響いたので、紹介してみたいと思う。

 

 

Amazonの「Prime Reading」とは

ことの発端はAmazonが「Prime Reading」という「何が目的なんだこのやろう」と憤りたくなるほどの優良サービスをはじめたことにある。

この「Prime Reading」Amazonのプライム会員向けの読み放題サービスだ。

 

Amazonの読み放題サービスといえば「Kindle Unlimited」だが、この「Prime Reading」はそれよりも規模が小さいもので、要は

「プライム会員向けのKindle Unlimitedお試しサービス」

的な位置づけのものらしい。

 

そんなのは本論でないのでこのへんにしておくとして、この「Prime Reading」を「ほほーんどんな本が対象なのかしら」と眺めていたときに見つけたのが『春の呪い』である。

 

 

 

小西明日翔さん『春の呪い』、おれ、とても好き

表紙としてはこんな感じ。

 

 

まずタイトルが『春の呪い』。

「呪い」て。

タイトルだけでも暗いし、重い。

しかも喪服で遺骨を抱いているではないか。

 

しかし暗い、重い話が好きな私はこのタイトルで「ほっほーん」と興味を持った。

あと表紙も好きな絵柄で、目を引かれた。

 

上でも書いたように「Prime Reading」の対象なので、無料で読めるわけである。

全2巻あるようで、無料なのが1巻だけなのだが、そこまでのものでなければ1巻でやめればよい。

 

私はそんな軽い気持ちで1巻を読み、読み終えた直後に気づいたら2巻を買っていた。

おそるべしAmazon・・・!!!

 

 

【ネタバレなし】漫画『春の呪い』あらすじ

あらすじとして、どこまで書くか悩むところであるが、これはそもそも話の展開やストーリーを楽しむ漫画ではない

描写や人物の心情に心を揺さぶられる作品である。

 

話の設定や進行としてはベタといってもいいようなもので、意外性のあるストーリーではない。

私はそういう話が好きなのでまったく気にならないが、万人の方が楽しめる作品ではないだろう。

(Amazonのレビューを見ると、「文字が多い」的な低評価コメントもあった)

 

一応関係性と序盤の流れだけ書いておくと、

  • 「夏美」と「春」という姉妹がいる
  • 夏美の妹である春が、19歳にして病気で亡くなってしまう
  • 春の死後、夏美は春の恋人であった「冬吾(とうご)」と付き合うことになるが・・・

みたいな話である。

 

登場人物はほかにもいるが、軸になっているのはあくまでこの3人。

 

 

あらすじ見るより実際に読んだほうが早い

ここまで書いてなんだが、あらすじもくそも、プライム会員は無料なんだからとにかく読んでみてほしい

 

絵柄や話の流れに、1巻(というか1話2話)で「うーん」と思えば絶対にそのあとも楽しめないのでそこでやめても問題ない。

その代わり1話2話で響くものがあれば、ほとんどの方は最後まで楽しめるはずだ。

 

というかプライム会員以外でも、『春の呪い』で検索すると出てくるPixivのサイトで1話2話が試し読みできるようだ。

公式のものなのでそれを読んでみてもいいだろう、とにかくこんなサイトを見ているよりそちらを見てみてほしい。

 

 

【ややネタバレあり】漫画『春の呪い』のよかったところ・好きなところ

『春の呪い』の一番好きなところは、作品全体の雰囲気だ。

絵柄も個人的に好きだし、全体に漂う(多分「まとわりつく」と表現したほうが正しい)暗さ・重さがとても好みだった。

 

たとえば、第1話冒頭の、

 

 

春が闘病のすえ他界したことに対して放たれた、

「でも これでもう苦しむこともないってのが救いね…」

という葬儀の参列者のこのつぶやき。

 

「第三者のなんの重みのない発言」と、当事者である夏美の重い心情とが、この短いシーンでよく対比として表されていると思う。

 

そのあとの、

 

 

という夏美の、「すぐ行くから」というつぶやきにも、得も言われぬ緊張感が感じとれた。

本当に冒頭のシーンなので、この時点では読者は状況がほぼわからないのだが、夏美が死を選ぶのではないかという予感が重くのしかかってくる。

 

このように最初から登場人物の「人間らしさ」が出ているところに好感を持った。

冒頭からいかにも世界観や人物の説明から入っていると私はうんざりする。

私は『映画「永い言い訳」あらすじと感想 面白い泣ける不快になる』でも書いたように、「その世界のキャラクターが人間らしいかどうか」をものすごく重視する。

それがすごく自然であるように私は感じた。

 

主人公の一人である冬吾(とうご)は、漫画でよくいるクールで無口なキャラクターだが、夏美といるときにふっと浮かぶ「楽しそうな表情」がすごくよく描けていると思う(こう書くと偉そうだな)。

 

また、夏美と年の離れた弟との関係もすごく自然でよい。

こんな感じ。

 

冒頭の重いシーンから一転するのだけれど、夏美の性格がすごく自然に描かれていて舌を巻く。

(この前の春との回想シーンもよいのだが)

 

このシーンを見てもらえばわかるように、軽いノリの場面もよくある。

よくあるのだが、それは表面上明るいだけで、その底には暗い、重いものが絶えず流れて離れないようで、それがこの作品をよく表しているように思う。

 

また、冬吾(とうご)の生い立ちは、漫画や小説などの創作ではよくあるものなのだが、

 

という母親の表情やこの言葉から、彼が無意識に負っている閉塞感がよく伝わってくる。

「よくある設定だから」と手を抜くことなく、過不足なく表現されているところも私には響いた。

 

いずれのシーンも、切り取ってしまうとそこまでのものは感じないかもしれないが、前後のシーンと合わせるとはるかによく伝わるはずだ。

(切り取ったのが引用の範囲として大丈夫なのかも不安なのに、うまく伝わらず逆効果になっていないかと不安である)

 

 

【完全ネタバレ】注文や『春の呪い』で不足を感じたこと、考え直したこと

ここからは完全なネタバレなので、少しでも「『春の呪い』読んでみようかな」と思ってくださった方はそっと閉じていただけるとありがたい。

 

 

 

 

 

 

夏美の春への想い

ここまでずっとほめてきたが、「もう少しこうしてほしかったな」と思った点もある。

まず、夏美の春への想いをもっと濃く描いてほしかった、という点だ。

 

2話で、冬吾目線で夏美の春への想いが語られるが、直後のことで動揺している可能性もあるし、私には恋愛感情にどこまで近いもの(あるいはそのもの)なのかが少し測りかねた。

特に母親に出て行かれ、父からは距離を置かれ、

「春しかいなかった」

「私のことを好きでいてくれる人も春しかいなかった」

という孤独が非常な切迫感をもって感じることができただけに、それが本当に恋愛感情なのかが読んでいて確信できなかった。

 

多分本人にもわからなかったのだろうが、であれば「フられる」という言葉が少し適当ではないようにも感じた。

 

関係ないが、その夏美の孤独がすごく伝わってきたので、春の

「冬吾さん……」

という今際の際のひと言の、夏美に与えた衝撃の強さもまたよく理解できた。

何度読み返してもいいシーンだ。

 

そういえば、冬吾に出した交際の条件も少しわかりにくい(まさか「条件を満たせばおしまい」だとは思わなかった)のと、冬吾と一緒にいたときの「楽しかった」という感じも、もう少しはっきりしていたら読んでいる最中浮かんだ「あ、そうだったの?」が減ったように思う。

(冬吾の「思うようにいかなさ」から来る、夏美に振り回されることに対する楽しさはすごく伝わった)

それらを濃く描いて、3巻分ぐらいあってもいいのでは、とも思ったが、2巻で完結だから読んだ部分もあるので、難しいところである。

 

 

春の「呪い」について

それから、一旦「こうしてほしかった」と思ってから、考えを改めたこととして、春の「呪い」についてがある。

 

春は誰にも見せるつもりのない日記で、はっきり

もし二人を引き離せるのなら…
どちらかを連れていけるのなら
わたしは姉を連れていく
姉を地獄に道連れにしてでも…
彼には生きて幸せになって欲しい

 

と、「地獄」という不穏な言葉まで使って、自分のもどかしさと、あきらめを表現している。

しかも「道連れ」と、まるで自分が地獄に行くことが決まっているかのような口ぶりで。

 

  • 春の最後のシーンがこの強い言葉で終わってしまったこと
  • また、タイトルを含め「呪い」という言葉が使われていること

から、春がまるで二人の足を引っ張る存在として機能してしまったのではないか(図らずも)、ということを読み終えた直後に感じてさみしくなった。

 

しかし、そのあと少し経って思ったのが、われわれがあとで

「あんなこと言うんじゃなかった」

「勢いで書いてしまったけど、反省している」

といった振り返りができるのは、われわれが生きているからこそなんだ、ということだ。

 

生きていればこそ、強い言葉を使ってしまったと後悔することができる。

その文字を消すこともできる。

しかし、人は亡くなってしまったあと、そうすることはできない。

訂正もフォローも謝罪も、なにひとつすることができない。

 

それが解ける瞬間は恐らく一生来ることはない

と冬吾が言ったそのままの意味なんだな、と考え直した。

 

呪いはあったのかもしれない。

身勝手な罪悪感で自分がつくり出してしまっただけのものなのかもしれない。

呪いがあってもいつか解けるものなのかもしれない。

呪いがないのにずっと縛られつづけるのかもしれない。

 

亡くなってしまった人のなかにあったものに、われわれが答えを出すことはできないし、その本人もいかなる釈明もゆるされない。

われわれは生きているあいだ、わからないまま、それを抱えて生きていく。

 

ということなんだろうなと、読み終わって少し経って思った次第だ。

むしろよくある「私はもうゆるしてるよ」みたいなご都合主義のシーンがなくてよかった。

そうした「正解のない、われわれの生きる人生そのもの」を表現しようとしていると感じられたことも、私が抱いた好感の一因だろう。

 

 

 

 

おわりに

ということで、『春の呪い』という漫画について感想などをつらつら書いてみた(だいぶはしょったのに思わぬボリュームに。。)

 

しかし書きはじめてから調べてみたら、2016年12月発売の「このマンガがすごい!2017」の「オンナ編第2位」だったらしい。

マンガ好きな方からすれば「なにをいまさら」感のある内容でお恥ずかしいかぎりである。

 

多分下でも書いた『永い言い訳』がお好きな方は楽しめるのではないか。

改めて、プライム会員の方は1巻無料なのでぜひご一読を!

 

 

 

 

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