あれは中学2年生の冬のある日だった。
私は母からリビングの机に呼び出され、とある紙を見せられた。
「こんな請求が来てたんだけど。今回は払うけど、二度目はないよ」
いきなりの難詰に面食らったが、母の話を要約すると
「家の電話に突如高額な通話料の請求が来た」
ということらしい。
2018年現在であれば、「すわ架空請求か」と疑ってしまうところでもあるが、当時は「ダイヤルQ2(ダイヤルキューツー)」というものを中学生ながらにぼんやり聞くことがあった。
ご存じない方もいらっしゃるかと思うので説明しておくと、ダイヤルQ2というのは、
・見知らぬ女性といかがわしい会話ができる
・あるいは見知らぬ女性のあられもない音声を聞くことができる
といったサービスであったように記憶している。
(本来は別にそれ限定のものではないのに、そうした利用がほとんどになってしまっていたようだ)
私は『いかがわしいデータと両手いっぱいの夢をフォルダに詰め込んでいたあのころのこと』などで己の過去の数々の悪事を書いているが、こうしたいかがわしい雑誌にはいかがわしい格好をした美女が、
「この電話番号にかけてねアッハーン」
みたいに辛抱たまらない誘惑をしてくるいかがわしい広告が必ずのっていた。
しかしよく思い出してほしい。
『いかがわしい本をバイト先からくすねる108つの冴えたやり方』でも書いたように、私はむっつりすけべのスペシャリストとして二重三重のたくらみを駆使して己のいかがわしい欲求を満足させる男である。
いかがわしい雑誌を買いに行くときだって、わざわざ遠くの店までバイクで赴く徹底ぶり。
そんな私が高額の通話料が請求される、いわば自分の足跡がくっきり残るようなサービスを利用するだろうか?
いや、するわけがない。
反抗期でもあった私はハッキリと母に答えた。
「は? おれじゃないんだけど」
心の奥底から湧き上がる《冤罪への怒り》を懸命にこらえつつの反論である。
何度か書いているが、谷口家は男三人兄弟である。
さすがに当時の弟は小学3年生なので除外されるとしても、2歳上の兄は高校1年生。兄が犯人である可能性も大いにあるのに、まっしぐらに私のもとへ来た母親へも一方(ひとかた)ならぬ失望を覚える。
そしてこれはあえて言うのが恥ずかしいのでたしか書いていなかったが、私は中学生のとき生徒会長を務めていた。
生徒たちの範たるべき生徒会長が、ダイヤルQ2で高額請求をなされるとは?
「この電話番号にかけてねアッハーン」の誘惑にあっさり屈するとは?
そんなことがあっていいはずはない。
私は静かに、しかし激しく瞋恚(しんい)の炎を燃やした。
ただ事実としては、「家の電話からなんらかの高額な通話料がかかる電話がかけられた」というものしか残っていない。
「やっていない」という証明ができるわけもなく(まさしく悪魔の証明である)、私と母の話は平行線のまま終わった。
憤った私は、しかし「このまま終わらせてなるものか」と真犯人をとらまえる方法をつかむため、ひとり自室に戻るとしばし思案した。
その思案の深さたるやまるで深海に沈みゆくがごとき様相を呈しており、30分ほどの思案ののち、私はひとつの推論に逢着し、はじかれるように顔を上げた。
心当たり、あるわ…っ!
なんか怪しい電話番号にかけてみて、ちょっとしたら怖くなってすぐ切っちゃった記憶、あるわ…っ!!
お姉さんのアッハーンな声を聞きたくなった覚えが、おれにはある…っ!!
というわけで犯人は私でした。
生徒会長、ダイヤルQ2から高額請求をなされるの乱。
(大塩平八郎の乱みたいに言うな)
しかも兄の友人から「こーへい、ダイヤルQ2に電話しちゃったんだって?」と後日からかわれました。
言うんじゃないよくそ兄貴が。恥ずかしいでしょうが。
青少年のキミは、怪しい電話番号にかけないよう気をつけよう!
青少年の子を持つ親御さんのあなたは、こどもも間違えることがあるし、恥ずかしさからついウソをついてしまうこともある。優しい心で向き合い、諭し、導き、ゆるしてあげよう!
めがねのお兄さんとの約束だぞっ!
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