「お前、鼻毛出てるよ」
過去、こう指摘されたことのある人間はどれくらいいるだろう?
かくいう私も例外ではなく、一再ならず指摘されたことがある。
(「一再ならず」は「一度や二度ではない」という意味だよ!)
はじめて指摘されたのは、中学校3年生のときだったと記憶している。
横浜市民ならわかっていただけると思うが、「新杉田」という駅があり、そこを歩いていたときに友人から冒頭のセリフを言われたのだ。
「お前、鼻毛出てるよ」
なぜ新杉田駅で彼が言い出したのかは謎に包まれている。
それが帰り道なら「やだっ、早く言ってよモ~☆ 帰ったらすぐ処理しなきゃっ」となるのだが、そのときはまだオネエに目覚めていなかったし行きの道中であったため、指摘された私は「えっ、いま言われたとてどうすればよいの?」と内心うろたえた。
しかし中学校3年生というのは思春期真っ盛り。
思春期を経てきた諸兄にはおわかりいただけると思うが、思春期というのはやたらとかっこつけたがる ものである。
そこでそのまま「えっ、ヤダヤダどうしたいい?」なんて聞き返すことができなかった私は、内心テンパったあげく「なに、鼻毛ごとき造作もない」という豪傑の態度を装い指で引っこ抜こうとした。
しかし鼻毛を指で抜こうしたことのある諸兄にはおわかりいただけると思うが、鼻毛というものはなかなか容易につまめるものではないし、道を歩きながらで鏡もないのでそもそもどこからどのように出ているのかが判然としない。
そんな私に友人は言った。
「やめろやめろ、お前はオヤジか」
「えっ、世のオヤジは指で鼻毛を引っこ抜くの?」とまた内心うろたえた私に彼は重ねて言った。
「それと、右じゃなくて左だから。穴違いだから」
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なぜかここまでは鮮明に覚えているのに、そのあと私がどう鼻毛を処したのかは記憶にない。
たぶん恥ずかしすぎて自分を守るために記憶を消したのだろう。
あとたぶんそのまま放置したのだろう。
このとき以来、私の脳裏の隅には「みんな鼻毛ってどうやって処理してんの?」という疑問が宿ることになった。
しかしシャイボーイ日本代表みたいなところがある私は、まわりの友人に「お前、鼻毛どうしてる?」と聞くことができなかった。
下ネタは散々話しているのに鼻毛の話を切り出せなかったのは、いま考えるとふしぎである。
(いかがわしいゲームを友人とやろうとして間違えて消してしまった話もあるぐらいである)
まず私が試みたのは、ハサミで切ることだった。
しかし当時は女性が持つような小さいハサミなんて持ってなかったし(当時っていうかいまも持ってない)、すると当然文房具丸出しの大きいハサミを使うことになるわけで、怖いし全然切れないしでハサミを使うのは断念した。
ならばと次に試みたのは、ピンセットで抜くことだった。
これはやればできるもので、ここから数年間はピンセットで抜くことが私の処理方法になる。
ただめちゃくちゃ痛い。
鼻毛を抜いたことのある諸兄姉にはおわかりいただけると思うが、ほんと涙目になるぐらい痛い。拷問といってよかった。自分で自分に処す拷問。
まあ「鼻毛抜きの刑」みたいな拷問があったら捕虜は「爪を剥がされるわけじゃないし清潔感出るしラッキー」と思うでしょうけれどもね。
ただ鼻毛姿を世にさらすよりはマシであろうと、熟慮した結果この痛みを耐え忍ぶことにした。
そんな私がこの次に試みたのは、鼻毛カッター である。
これだ。電池で動くタイプである。
これはたしか18歳のころ、友人と行ったドン・キホーテで発見し、金の延べ棒を見つけたときのごとく震えたことを覚えている。
「なに、これ…? 鼻毛専用のカッターなんてあるの…???」
私はまるで友人に隠れてエロ本を買うように、隠密にしかし迅速にその鼻毛カッターを買った。
その日、私はまるで本当にいかがわしいグッズでも購入したかのようにそそくさと帰宅し、そのパッケージを開けると、おそるおそる、奇妙なほどの心の昂ぶりをまた同時に感じつつ、そのグッズをそっと穴に差し入れた。
あっ・・・!!!!
なぜいかがわしい文章風に書こうとしているのか自分でも理解に苦しむが、ともかく「ブイーン」という振動と音とともに、そのグッズは私の穴を隅々までキレイにしてくれた。
私は「これだ」と直感した。これこそが私の世界の救世主となることを確信した。
以来鼻毛カッターを使い、現在で2台目を用いているのであるが、同時にこの疑問が解消されたわけではないことも感じていた。
「みんな鼻毛ってどうやって処理してんの?」
結局そのあとも私は友人に聞けないまま成人していたが、23歳のとき、当時おつきあいしていた女性となんやかんやで同棲することになった。
同棲するとなると、当然こまごました日常のことも相手にさらすことになる。
鼻毛の処理もまた同様である。
最初のほうは、相手がお風呂に入っているときなどにこっそり鼻毛カットをしていたが、やはりだんだん面倒にはなってくる。
面倒にはなってくるが、「鼻毛をカットする」という行為になぜか羞恥を感じていた私。
「へへ、アネさん、ちょいと失礼しやすよ」
という小物感丸出しの口調で彼女に背を向け(実際に言った)、部屋の隅でゴミ箱を抱えて「ブイーン」と鼻毛カッターを震わせていた。
私としては、そこで、彼女のほうも「じゃあ私もやっとこうかな」となって二人仲よく共同作業、各自のお鼻の毛の処理をする流れになるのではないかと思っていた。
が、彼女のほうはいつまで経っても、何日経っても鼻毛を処理しない。
私は「この子はどう・いつ鼻毛を処理しているのだろうか。もしや恥ずかしがっているのかもしれぬ」と考え、それとなく聞いてみた。
「お鼻の毛って、どうやって処理してんの?」
「全然それとなくねえじゃん」という点についてはどうか目をつむっていただきたい。
しかしそんな質問をされた彼女は、驚くべき回答をした。
「んー、別に、これといって処理してないよ」
はっはーん、なるほどね。
なるほどなるほどぉ、女の子だもんね。
わかるわかる、鼻毛の処理とかしなくてもひょっこりはんしないよね、かれんな女の子はオナラも出ないし鼻毛も生えない、と。
・・・ウソつけやぁ!!
私なんぞはこれといって処理してなかった末に「お前、鼻毛出てるよ」という恥ずかしい指摘をされたのだぞ。
じゃああなたのお鼻覗き込みますよ? いいですか? 下から舐めるように覗き回して鼻毛出てないかチェックしますよ?? よござんす?? その処理してないお鼻をチェックしてよござんす?????
などという意地悪な反応はしなかったし、特段の鼻毛チェックも実施しなかったが、彼女の鼻からお毛々がひょっこりはんしていたことはなかったので、おそらくこの回答は嘘だったのではないかと思っている。
恥ずかしかったのだろうか。
こちらの彼女とはほどなくお別れすることになるのだが(鼻毛が原因ではない)、このあとお付き合いしてくださった妻はハサミで処理しているそうで(書いて大丈夫かこれ)、こういう重要情報も共有してくれる姿勢に私の胸は一層ときめくのだった。
恥じらいも大事だけど、伝えるべき情報はきちんと伝えよう!
鼻毛処理が恥ずかしくない世界の実現を!
われら鼻毛処理レジスタンス!!
というよくわからない話で2018年最後の更新を締めたいと思います。
めがね。
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<余談>
先日の『私は、とある穴をほじくられまさぐられ、生まれたままの姿を世間にさらした』といい、なぜか最近穴の話が出てきています。
いえ、実はこの鼻毛話は『とある穴』より前に書きかけていた話だったのですが、特段のオチが見いだせずそのまま放置していたのでした。
まあ今回の鼻毛レジスタンス(レジスタンスの意味がよくわかってない)も「特段のオチ」とは言いがたいのですが、毛の話はまとめて2018年に納めておいたほうがよかろうということで今回の更新と相成りました。
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<余談2>
これで年末最後の更新なわけですが、当ブログでは「年末年始はくだらない話に徹する」という謎ルールがあり、やむなくこちらのブログをアップした次第。
2016年は『男子トイレで見知らぬおばあちゃんを助けたら面接に受かった話』でして、個人的にこれはなかなかの力作です。
もし年末年始でしたらおひまでしたらご一読くださると喜びでめがね割れます。
「いや、そんなひまじゃないし」ということでも悲しみでめがね割れます。
つまりどのみちパリンパリン。
エブリタイムめがねパリンパリン。
「役に立った!」「ニヤニヤした」など、もし「こいつ応援してやろうかな」という菩薩のごときお心が芽生えましたら、Amazonか楽天でお買い物するときに、下のリンクを踏んでからお買い物をしていただけますと私にジュース代なんぞが入ります。とても嬉しい。(なぜかメガネの検索画面が出てきますが無視してお好きなものを!)
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